本来であれば今夜はコミュニティについてさらに掘り下げる予定だったのだけど……本日のApple新製品発表会よりも何よりも、Googleの広告関連の主張を見て怒髪天を衝く勢いで怒りを感じたので、ここでぶちまけさせてもらいたい……(ハァハァ)
Googleが無茶苦茶欺瞞に満ちた反論を厚顔無恥にも以下で公開している
Google’s case in the Department of Justice ad tech lawsuit
私は編集長として実際にほぼ隔週で収益部門、そして技術部とともにミーティングをリモートで繰り返しており、実際にGoogleアドマネージャー・Google広告・AdSenseなどのレポート画面や各種機能を駆使しまくって分析し、我々のGIGAZINEを支えるために奮闘しているが、Googleの主張は無理筋どころか、すべてがイカれている。まずエントリー中の見出しからしておかしい。
Googleの主張:アドテクの競合他社は数百社あり、その中には多くの大手企業も含まれます。広告の買い手と売り手は、当社のツールと競合他社のツールを組み合わせて使用します。
……なるほど、つまり健全な競争が行われていると言いたいわけだ。しかし、実際にはすべてGoogleアドマネージャー経由で統合しなければならない。競合はあくまでも見せかけであって、レポートを見る限り、規模で勝っているGoogleが基本的に勝つ。競合他社がGoogleに勝つには迷惑広告・詐欺広告を表示するしか方法がない。なぜなら、迷惑広告・詐欺広告は単価が高いため。同種の広告であれば常にGoogleが勝つ。Googleが総元締めなのであらゆる点で有利。実際、Googleアドマネージャー経由ではない方法として、過去にGIGAZINEは自前で広告サーバーをホストして運用していたが、広告主側から見るとGoogleが圧倒的なので、次第にどこの広告代理店も広告主もGIGAZINEに広告を直発注しなくなり、すべてGoogle経由となっていった。この状況を覆すには、Googleが提供している価格よりも安く広告を提供しつつ、Googleから得られるよりも高い収益が見込める価格の均衡点を探し出す必要性があるのだが、Googleが広告取引の詳細なレポートを提供していないので、一体誰にいくらで広告枠が入札され、Googleが何円の手数料を取り、そしてその結果として我々GIGAZINEに収益がもたらされているのかが一切不明となっている。要するに透明性がないので自力で価格調整ができない。同じ低品質であっても、Amazonマーケットプレイスとの最大の差はここにある。Amazonマーケットプレイスも同じようにしてAmazon自体と他の中小企業で競争しているが、一般人の目から見て少なくとも「価格」がはっきりとわかっている。この差は非常に大きい。
Googleの主張:当社のアドテク料金は、報告されている業界平均よりも低くなっています
競争を阻害していることを自白している。あとこの見出し中の以下の部分が明らかにおかしい。
「企業が必要な統合製品やサービスにアクセスすることが困難になると、広告主の料金が上昇し、パブリッシャーの収益が低下する可能性があります。そのシナリオでは誰も勝てません」
何を言っているのだ?(激怒)
広告主の支払う料金が上昇すると、それに合わせて我々GIGAZINEの収益も増加する。こんなのはあらゆる取引の基本だ。値上げしたのに収益が下がるのであれば、それはもう構造がおかしいだけであり、Googleは自分でおかしくなっていると主張している。正気ではない。裁判で勝つことが主目的なので、こういうむちゃくちゃで非合理的な主張を平然とインターネット上に公開できる。これを傲慢と言わずして何というのか?料金が値上がりしているのに収益が低下するのは間に入っている手数料が値上がりに合わせてアップする場合のみ。手数料が一定である以上、料金の値上がりは収益増加と同じ。Googleの言い分通りであれば、広告主の料金を下げると我々GIGAZINEの収益が下がるのは、間に入っているGoogleが手数料を変更するからということになるのでは?実際に各広告取引で広告主が何円払っており、Googleが何パーセント取っており、こちらが何円受け取るのかが公開されていないことをどのように合理的にGoogleは説明できるというのか?
Googleの主張:司法省の訴訟は中小企業の成長を困難にし、人々が目にする広告の品質を損なう可能性がある
キャンプ・ギガジンにいる我々が直近1ヶ月ちょっとの間、実際に活動して実感したはず……逆だ。Googleとの競争に勝つために他社がより低品質・高単価な広告を撒き散らし、さらにGoogle広告内でも積極的にハッキングに等しいテクニックが横行しており、どんどん品質が劣悪になっている。そういう意味ではAmazonマーケットプレイスと同じだと言えばわかるはず。適切な規制がGoogle側で成されておらず、我々が手動で対策せざるを得ない。そして手動で対策すればするほどどんどん収益が悪化していく。我々以外のニュースサイトやメディアが迷惑広告・詐欺広告を放置するためのインセンティブをGoogleが与えていると言っても過言ではない。それどころか、Googleは広告業界全体の信用と信頼を損なうことで利益を上げており、なおかつ各取引における手数料や収益の明細を非公開にして透明化を損なっている状態で「品質」を主張するとは、ちゃんちゃらおかしい。優秀な頭脳を持っているGoogle社員を使ってやっていることが、Google自体の収益の最大化に伴う害悪の流布で世界全体を汚す結果になっており、公害を撒き散らして地球環境を汚染するのと似ている。Googleがこのまま健全さとほど遠い自己中心的な理屈で、Google以外の全てを圧迫し続ければ、Googleはあらゆるユーザーから見放されて滅びるだろう……というか、こういうGoogle自身の歪んだ思想と価値観がそのままコア事業である「検索」に反映している。このことはここにいるキャンプ・ギガジンの諸君であれば同意できるだろう。検索品質は着実に悪化している。その原因はGoogleの広告にある。もう1つの軸が「Chrome」だ。そしてそれらの根底にある人間自体をハックする共通項、それが「便利」だろう。「便利」というのが諸悪の根源となっている。
私は大学では経済学部であったが、その必修授業の中で今も役立っているので感謝しているのが「マクロ経済」と「ミクロ経済」、そして「ゲーム理論」の3つ。中でも「マクロ」と「ミクロ」の概念は、Googleがなぜダメになっていったのかをうまく説明できる。
マクロ=全体
ミクロ=個人
概念として簡単にするため、上記のように置き換える。全体の都合を優先すると個人が犠牲になり、個人の都合を優先すると全体が犠牲になる。
例として、会社を考える。個人としては「働かずに給料をもらう」が最適解となる。なので、できるだけサボればよい。自分の代わりに他の社員が働けばいいのだ。この個人における最適化を、全社員が実行すれば誰も働かなくなる。結果、会社が潰れるのだが、違う会社へ転職すればヨイ。そして同じ事を繰り返せばヨイ。なぜなら、世界中の会社が潰れることなどありえないからだ……本当に?
身近な例で言えば「アドブロック」だろう。個人としては「広告を見ずに情報をゲットする」が最適解となる。できるだけ広告を消せばヨイ。自分の代わりに誰か他の人が広告を表示すればいいのだ。この個人における最適化を、全読者が実行すればGIGAZINEの収益はゼロとなる。結果、GIGAZINEは消滅するのだが、違うニュースサイトを見ればヨイ。そして同じ事を繰り返せばヨイ。なぜなら、世界中のニュースサイトが潰れることなどありえないからだ……本当に?
Googleはこれと同じ事を「便利」という点で忠実に実行している。各個人の判断の単位は「自分が便利であること」だ。全体はどうなってもヨイ。なぜなら認識できない、あるいは認識しても自分が損をする行動を実行できないから。
広告の場合、広告主が広告を出稿できる「AdWords」というのをGoogleは自前で作って持っていた。大きく変わるのは「DoubleClick」の買収から。「DoubleClick」はもともと、広告主が様々な広告プラットフォームへ広告を出してレポートをまとめるようなツールだった。「DoubleClick」をGoogleが買収することで、いろいろなプラットフォームへ広告を出すツールの形をしているが実際には「Googleの広告プラットフォームを経由することで広告を出すツール」へと変貌していった。少しずつ、気付かれないように。なぜ気付かれないのかというと「便利」という形で甘くコーティングしているため。「いろいろなところへ広告を出す設定をするのは不便でしょう?Googleを使えば1度設定するだけでいいので便利ですよ!」ということを何度も何度も、何年も何年も繰り返していったわけ。以下がGoogleの主張する「便利」だ。
広告主へ:まとめていろいろなところへ広告を出せます!一度設定するだけでよいので便利ですよ!
他の広告プラットフォーマーへ:うちと接続すればGoogleが広告を配信できない枠について自動で配信できるようになり便利ですよ!収益も自動で上がります!
ニュースサイトやメディアへ:広告枠としてコードをサイトに貼っていれば自動で収益が増えますよ!広告主を管理せずに済むので便利ですよ!
Googleのニュースサイトやメディア向けの担当者が日本支社にもかつては存在しており、我々GIGAZINEも長年、いろいろな日本のGoogle社員がついていた。彼ら・彼女らはいろいろなプレゼンテーション資料を持ってきて説明してくれるわけだが、もちろんGoogle社員である彼ら・彼女らが根本となる広告システムを作ったわけではない。何の権限もない。だから、明らかに彼ら・彼女らが「これはおかしい」と感じる資料を持ってくることも多々あった。例えばこんな感じだ。
Google日本支社の社員:ここにこういう形で広告と気付かれない形で広告を表示すれば収益が上がりますよ!
私:へー。じゃあなぜGoogleの検索結果ページに採用していないのですか?本当にユーザーにとってプラスになり、収益もアップするのであれば、Googleの検索結果ページに採用できるはずでは?なぜGoogleの検索結果ページにそれを採用していないのかを本社へ問い合わせてみてください!
Google本社の提案はいつだってこの調子であった……「ユーザーにとって迷惑だが、収益は上がる」という施策。ここ、キャンプ・ギガジンにいる諸君であれば実感できるであろう……なによりもかれよりも、そういった提案が「実際に結果が出る」ものであればよいのだが、Google自身は採用しないものが多い。つまりユーザーが離れるようなことばかり。代わりに収益は増える。短期的には収益が増加するが、長期的には収益が低下する。なぜなら、読者が離れていくから。マクロとミクロの理屈と同じ。全体としてのGoogleを生存させるため、ミクロであるユーザーや我々GIGAZINEのようなサイトは消えてもよいわけだ。Googleはユーザーをなめ腐っている。「便利」を提供し続ける限り、反抗しないと思っている。「便利」を手放すことが1つの抵抗になることは確かだが、そんなことは個人ではできないとわかっているから、こういう搾取構造が成立している。個人で勝つ方法は絶対にない。私がこれまで学び、歴史を調べ、本を読み、あらゆる研究を総ざらえしてきたが、個人でGoogleに対抗する方法はゼロだ。Google社員は賢い。優秀な頭脳が揃っている。だから勝つ方法を極めている。しかし、穴がある。Googleが個人を「便利」でハックして力を得たように、我々もGoogleをハックできる。
あらゆる方法を試したので私はGIGAZINE編集長として断言できることがある。Googleに代表されるような企業、あるいは国家、もしくは宗教、そういう「組織」に対抗する方法はかつては同じ規模の「組織」に属するほか無かった。実際、Googleの独占に対して今戦っているのは国家だ。しかしこれはマフィアvsヤクザみたいなもので、お互いにシノギを巡って奪い合いする縄張り争いに過ぎない。巨大な組織同士の抗争の足下で我々がどうなろうと知ったことでは無いのだ。
しかし……果たして本当にそうなのだろうか?私は2010年頃に「知識が我らの力になり、個人の力は最大化される」と説いた。結果が今のこの現状であり、何かが間違っている。私は猛省した。修正する必要があると決意した。個人の力の最大化をもたらす組織が力をさらに振るうようになっただけだったからだ。本当に必要なのは、個人の最大化された力を束ねること。大企業も国家も宗教も、トップに立つ権力者がその束ねられた力を振るうためにあるのだろうか?これはおかしい。だからこそ、「コミュニティ」が必要であるという結論に至った。個人よりは大きく、しかし権力者のためではない。集団では無く、場であること。なにより、我々全員に利益があること。
というわけでなんとかかんとか怒りを糧にして本来の話題に戻ってきたところで、次回へ。
前:どういう「コミュニティ」を目指すのか、あと現状をグラフ化
次:GIGAZINEのコミュニティらしきものの歴史、そして巨大化しすぎたコミュニティの末路